機械運動学の良心的説明2

~静力学のきもち~

機械運動学の1章2章は主に静力学と呼ばれ、力が釣り合っていて動いてない物体にかかる力についての力学だ。ちなみに動く物体についての力学は対比的に動力学と呼ばれる。動力学では並進運動(数学的に言えば平行移動)、回転運動(回転移動)の2つの運動について考える。何故ならば任意の運動は瞬間的に、この2つの運動の組み合わせで表現できるからだ。逆に言えば、静力学では動かないようにしたいわけだから並進運動、回転運動をしないように条件を加えればいいわけだ。これが静力学の真髄である。その条件とは次のことである。

並進運動をしていない→物体にかかる力の和が0
回転運動をしていない→物体にかかる力のモーメントの和が0

数学的に書けば
F_1+F_2+\cdots+F_n=0
N_1+N_2+\cdots+N_n=0
と表現出来る。力や力のモーメントはベクトルであるためベクトルの和(合成)が0だということだ。
物体にかかる力の和と力のモーメントの和が2つとも0のとき力が釣り合っているという。
※因みに逆は成り立たない。力が釣り合っていても等速直線運動や等速円運動ができる。

演習問題の解説

【1】反力R_A,R_Bを求めよ。

まず力の釣り合いの条件を立てる。
40+90+70+100-R_A-R_B=0
1\times40\times\sin90^\circ+2\times90\times\sin90^\circ+4\times70\times\sin90^\circ\\+5\times100\times\sin90^\circ+6\times(-R_B)\sin90^\circ=0
Bの位置が少しズレている気がするが無視する。1本目は力の和であるが、第1,3成分は0であるため、第2成分の力の和だけで十分である。2本目はA点周りの力のモーメントの和である。「B点周りの」ということは、位置ベクトルはBを原点としてとると解釈する。これもまた第1,2成分は0であるため、第3成分の力のモーメントの和となるが、外積
|r||F|\sin\theta
を使っている。つまり|r|はBからの距離ということになる。さて、2式を簡単にすると
R_A=300-R_B
R_B={500\over3}
よって、
\begin{cases}R_A=300-{500\over3}\approx133\ N\\R_B\approx167\ N
\end{cases}
となる。
【4】長さ2lの棒ABが一端を回転自由なピンBにより垂直な壁に固定され、点Aに垂直な力F=100 Nが作用している。水平に張られたロープCDにより棒の中点Cで支えたところ壁面とのなす角はθ=30°となった。棒とロープの質量を無視するとき、点Bの反力Rとひもの張力Tを求めよ。

同様に釣り合いの条件を立てる。
 \left(
    \begin{array}{c}
      -R\cos\phi \\
      R\sin\phi 
    \end{array}
  \right)+
\left(
    \begin{array}{c}
      0\\
      -F
    \end{array}
  \right)+
\left(
    \begin{array}{c}
      T\\
      0
    \end{array}
  \right)= \left(
    \begin{array}{c}
      0\\
      0
    \end{array}
  \right)
2lF\sin(180^\circ-\theta)+lT\sin(270^\circ-\theta)=0
1本目の第3成分は0なので省略した。2本目はB点周りの力のモーメントの和である。これもまた、
|r||F|\sin\theta
を使っている。角度はrからFに反時計回りにとっているのがわかるだろうか。270°-θとはBC方向の長さlの位置ベクトルから張力Tまで反時計回りにとった角度であるとわかる。わからない人は前回のブログに乗せた下の図をみるといい。

2式を簡単にすると
\begin{cases}T=R\cos\phi\\F=R\sin\phi\end{cases}
T={200\over\sqrt{3}}
1本目を変形させると、
F^2+T^2=(R\cos\phi)^2+(R\sin\phi)^2=R^2
となる。これは三平方の定理から求めることが出来たがせっかく力の釣り合いの式を立てたので使って求めてみた。
よって、
\begin{cases}R=\sqrt{100^2+\left({200\over\sqrt{3}}\right)^2}\approx153\ N\\T\approx115\ N
\end{cases}
となる。
【5】長さl、質量mの棒ABが一端を天井に糸でつるされ、他端Bに水平力Fを加えられて釣り合っている。糸と棒との垂直線に対する角θ₁,θ₂を求めよ。

まず釣り合いの条件を立てる。
 \left(
    \begin{array}{c}
      -T\sin\theta_1 \\
      T\cos\theta_1
    \end{array}
  \right)+
\left(
    \begin{array}{c}
      0\\
      -mg
    \end{array}
  \right)+
\left(
    \begin{array}{c}
      F\\
      0
    \end{array}
  \right)= \left(
    \begin{array}{c}
      0\\
      0
    \end{array}
  \right)
lF\sin(90^\circ-\theta_2)+{1\over2}lmg\sin(360^\circ-\theta_2)
2式を簡単にすると、
\begin{cases}F=T\sin\theta_1\\mg=T\cos\theta_1\end{cases}
2F\cos\theta_2-mg\sin\theta_2=0
よって、
\begin{cases}\tan\theta_1={F\over mg}\\ \tan\theta_2={2F\over mg}
\end{cases}
となる。

機械運動学の良心的説明1

内積外積

力は直感的に理解できるが力のモーメントは今の学年の知識では直感的理解は難しい。何故ならば力のモーメントは外積によって定義され、その外積とやらを修習してないためである。

内積

まず外積の対比、内積の復習からする。
2つの3次元ベクトル
 \overrightarrow{a}= \left(
    \begin{array}{c}
      a_1 \\
      a_2 \\
      a_3
    \end{array}
  \right),
\overrightarrow{b} = \left(
    \begin{array}{c}
      b_1 \\
      b_2 \\
      b_3
    \end{array}
  \right)

がある。これらの内積
\overrightarrow{a}\cdot\overrightarrow{b}:=\displaystyle\sum_{i=1}^3a_ib_i=a_1b_1+a_2b_2+a_3b_3

と定義される。A:=Bは「AはBと定義される」という意味だ。同じ成分の積の和といえる。定義からわかるように
A\cdot B=B\cdot A
と交換法則が成り立つ。このことを可換であるという。
幾何学的なベクトルの内積にはもう1つの内積の表現がある。次の図のようになす角θが定められているとき、

2つのベクトルの内積は、
\overrightarrow{a}\cdot\overrightarrow{b}=|\overrightarrow{a}||\overrightarrow{b}|\cos\theta

と表せる。|A|とはベクトルAの大きさのことで
|A|:=\sqrt{A\cdot A}

と定義される。なす角が直角のとき、つまり2つのベクトルが垂直のとき、つまりなす角が90°や270°のときcosθが0であるため、内積は0であるといえる。下の図のように上手く座標系を設けてやると、

a_1=|\overrightarrow{a}|,\\b_1=|\overrightarrow{b}|\cos\theta,b_2=|\overrightarrow{b}|\sin\theta,\\a_2=a_3=b_3=0

となり、これらの同成分の和で導出できる。
\overrightarrow{a}\cdot\overrightarrow{b}= a_1b_1+a_2b_2+a_3b_3=|\overrightarrow{a}||\overrightarrow{b}|\cos\theta

外積

では外積について学んでいこう。内積とはベクトルとベクトルからスカラーをだす演算であるが、外積とはベクトルとベクトルからベクトルをだす演算である。(厳密にはベクトルとベクトルの外積は擬ベクトルと呼ばれるものだが同じものと考えていい)
先程の2つの3次元ベクトルの外積
\overrightarrow{a}\times\overrightarrow{b}:= \left(
    \begin{array}{c}
      a_2b_3-a_3b_2 \\
      a_3b_1-a_1b_3 \\
      a_1b_2-a_2b_1
    \end{array}
  \right)

と定義される。×は数と数の積に使われるが別ものである。定義からわかるように
A\times B=-B\times A

が成り立つ。このことを反可換であるという。これは

と図示できる。中指を\overrightarrow{a},人差し指\overrightarrow{b}とした、フレミングの左手の法則を思い浮かべればいい。因みにフレミングの法則は外積である。
どの方向を向いているかというと、下の図のように2つのベクトルに垂直な方向を向いている。

これは
\overrightarrow{a}\cdot(\overrightarrow{a}\times \overrightarrow{b})=0\\ \overrightarrow{b}\cdot(\overrightarrow{a}\times \overrightarrow{b})=0

を確かめてやると確認できる。(内積0は垂直)
機械運動学の問題では3次元ベクトルは登場せず、2次元ベクトルであるためa₃とb₃は0になり、それらを含む外積の第1成分、第2成分は0になり、2次元ベクトルの外積は第3成分のみになることが理解できるだろうか。つまり外積は紙面垂直方向に飛び出しているのである。因みにそれは忘れているかもしれないが授業に1度だけでてきた。力のモーメントである。位置(x,y)に力F_x,F_yが加わっているとき、その力のモーメントMは
M=xF_y-yF_x

と表される。つまり力のモーメントとは位置ベクトルと力の外積であると勘のいいガキなら勘づくかもしれないが、後で説明する。
外積内積のときのようになす角θが定められているとき面白い表現を持つ。2つのベクトルの外積の大きさは
|\overrightarrow{a}\times\overrightarrow{b}|=|\overrightarrow{a}||\overrightarrow{b}|\sin\theta

と表せる。注意すべき点は大きさであるところだ。これの幾何学的意味は外積の大きさは2つのベクトルがつくる平行四辺形の面積であることだ。

2つのベクトルが線形従属(平行)のとき、つまりなす角が0°や180°のときsinθは0であるため、外積は0であるといえる。
これも内積のときと同じように座標系を設けてやると、
a_1=|\overrightarrow{a}|,\\b_1=|\overrightarrow{b}|\cos\theta,b_2=|\overrightarrow{b}|\sin\theta,\\a_2=a_3=b_3=0

となり、これらを外積の定義に代入してやると導出できる。
|\overrightarrow{a}\times\overrightarrow{b}|\\=\sqrt{(a_2b_3-a_3b_2)^2
      +(a_3b_1-a_1b_3)^2
      +(a_1b_2-a_2b_1)^2}\\=|\overrightarrow{a}||\overrightarrow{b}|\sin\theta

※厳密にはsinθが負になることがあるためsinθに絶対値をつけなければならない。
外積は2つのベクトルに垂直な方向で、2つのベクトルがつくる平行四辺形の面積の大きさで定められるベクトルだとわかった。
今までこのことを表にまとめよう。

内積 外積
結果 スカラー ベクトル
交換法則 可換 反可換
なす角の関数 cos sin
0のとき 垂直 平行

なす角の関数とは、|A||B|???θの???のことである。この記事で覚えていただきたいのは、外積の公式のなす角の関数がsinであるということだ。これを伝えるために長々と説明したといっても過言ではない。

力のモーメント

先程少しいったが位置ベクトルrで表される位置に力Fが加わっているとき、その力のモーメントNは
N:=r×F

と定義される。登場するベクトルは2次元ベクトルであるためNの第3成分にしか興味が無いためθを使って、
N=|a||b|\sin\theta

と表せる。力のモーメントは負になることがあるためsinθに絶対値はいらない。

外積は反可換であるため、下の図は上の図の-1倍になることが理解できるだろうか。

簡単に言えば、rからFに反時計回りに角度を取るほうを正としているということだ。つまり2枚目は
|r||F|\sin(360^\circ-\theta)=-|r||F|\sin\thetaとなって負になるということだ。
これが理解できたらあとは静力学の根本が解っていれば苦はない。