基底
物理学において座標は直交座標系が最も基本的でベクトルの基底は直交座標系の3軸に平行な正規化(自身との内積が)された正規直交基底をとるのが普通である.直交座標系における基底は空間上のどの点においてもそれぞれ同じ方向,同じ大きさの基底をとることができる(図1参照).しかし曲線座標系(例:2次元 極座標系,3次元 円筒座標系,球座標系)や質点に固定された自然座標系では空間上の各点で別の基底をとる(図2参照).
図1
図2
曲線座標系
曲線座標系の基底
曲線座標系において基底は図2のように各点でパラメータの接線方向にとり,直交座標系のパラメータを,基底を,曲線座標系のパラメータを,基底をとすると
と定義される.極座標系を例にみると,直交座標系のパラメータを,基底を,極座標系のパラメータを,基底をとすると
となる.
であるため,偏微分は
となり
となる.は正規であるがは自身との内積はであり扱いずらい.そこで正規化してさらに
という基底を用いればよい.
このパラメータの変換と正規化の手続きを知れば任意の曲線座標系の基底は導出することができる.よく使う曲線座標系の直交座標系との取り換えを表にする.
座標 | パラメータ | 基底(正規化) |
---|---|---|
極座標系 | ||
円筒座標系 | ||
球座標系 |
※球座標においてはの定義に様々な流儀がありここでは経度角を,軸からとった緯度角をとした
※※極座標系の原点,円筒座標系,球座標系の軸上はパラメータが決まらない特異点であるため基底をとることができない
※※※たまたま極座標系と円筒座標系と球座標系の基底は直交基底であるだけで一般の曲線座標系では斜交することがある
曲線座標系における質点の運動
曲線座標系がおかれた空間の中を質点が運動していることを考える.曲線座標系において速度と加速度は
と定義される.速度は各パラメータの時間微分を成分とし,パラメータの接線方向の基底との線形結合になっている.加速度は速度の時間微分になっている.ここで注意したいのは基底は空間の各点で別であるためパラメータの関数となっており,今は曲線座標系における質点の運動を考えているためは質点の座標を表しており時間に依存する.つまり基底は時間に依存する.よって速度を微分するということは速度の成分と基底の積の微分をするということである.極座標系を例にみると
と計算され
であるため
となる.
曲線座標系の接線方向の基底の導出の仕方と速度や加速度の定義を知れば任意の曲線座標系の速度や加速度は導出することができる.直交座標系は曲線座標系の特別な場合とみることができるが,よく位置ベクトルを使って速度や加速度を
と定義する文献をみかけるが,それは直交座標系の基底が時間に依存しないからできることであって曲線座標系の観点からみると間違いである.そもそも曲線座標系のパラメータと基底で位置ベクトルを定義できない.一般相対論では時空が歪むため曲線座標系が主役となり今や位置ベクトルとは廃れた概念である.また
と定義するのもNGである.
自然座標系
図3
自然座標系の基底
直交座標系も曲線座標系も空間に対し制止しており舞台の役割をなすが,質点の運動の記述では質点に追跡するような座標系を考えることもできる(図3参照).そこで有効なのが自然座標系である.自然座標系は質点が通る経路上の基準点からの弧長(経路にそって測った距離,質点の移動距離)と質点の微小変位ベクトル※を用いて定められる,これから説明する接線方向,主法線方向,陪法線方向に3軸を置く直交座標系である.接線方向とは書いて字のごとく経路の接線の方向であり質点の移動方向を正とする.接線方向の単位ベクトルはが接線方向を向きであるため
と定義される.あるいは速度ベクトルが接線方向を向くため正規化して
とも定義できる.この定義の等価性は
と変形して示される.ここで
であることに注意されたい.主法線方向とは接線の変化の方向であり
の方向を向き接線方向に垂直である.説明を省くがこのベクトルの絶対値は曲率であるため曲率半径(曲率の逆数)をかければ正規化される.よって主法線方向の単位ベクトルは
と定義される.陪法線方向とは接線方向,主法線方向に垂直な方向であり,よく接線方向から主法線方向へ右ねじの方向を正とし
と定義される.
※余談であるが微小変位ベクトルは厳密にはと定義され位置ベクトルは用いてない