高専生のための解析力学

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解析力学とは質点・質点系・剛体の力学にとどまらず電磁気学相対性理論量子論とほとんどの現代物理学の根幹をなす,すなわち物理の常識である.そんな解析力学は物理学者のみならずエンジニアにも好まれる大変便利なツールという一面を持つ.エンジニアにとって具体的にどのような場面で使われるかというと剛体の運動方程式を導くときと,振動系の固有振動数運動方程式,その解を導くときに使われる.なぜ好まれるのかというと,系が複雑でも極めて機械的に解くことができるからである.エンジニアにとって興味があるのは物理現象ではなく作るものの力学的な量でありそれを求めるためにケースバイケースで考えるのは効率が悪い.これを高専生が学んだら将来エンジニアになってからだけでなく試験や実験で活用でき学ぶ価値がありそうなのでこの記事を書こうと思うに至った.今回扱うのは解析力学の中でもラグランジュ形式とよばれるものである.理論的な説明でわからなくてもいいのでとりあえず読み進め,豊富な具体例で理解することをお勧めする.

ラグランジアン

系の運動エネルギーTと系の位置エネルギーUに対し
L:= T-U
と定義される量をラグランジアンという.これが何を意味するのかはナンセンスな問いである.僕もわからないしこれに物理的もしくは幾何的意味を与える重要な理論など存在しないと思う.ただこれを使っていろいろやるだけである.「系の」とつけたが例えば複数の物体の系のエネルギーはすべての物体のエネルギーを足したものになる.物体が複数ある系は運動方程式から議論を始めると物体の数だけ(回転するならそれよりも)方程式を立てなければならず効率が悪い.そこで系の全エネルギーまたそこから作られるラグランジアンから議論を始めると一つで済むので大変好ましい.ラグランジアンとは系の情報の親玉なのである.さてT,\ Uの覚えるべき具体例は
運動エネルギーU\\
\frac12m\dot x^2\ 並進運動のエネルギー\\
\frac12J\dot \theta^2\ 回転運動のエネルギー\\
位置エネルギーT\\
mgx\ 一様重力場のエネルギー\\
\frac12kx^2\ ばねのエネルギー
の以上4つである.文字の上の点は時間の1階微分を表す.運動エネルギーは3次元的に運動するのであれば
\frac12m\{\dot x^2+\dot y^2+\dot z^2\}
のようにあらわされる.回転運動のエネルギーはより一般的には慣性モーメントJは行列で与えられ,回転角\thetaも列や行で与えられるが高専の範囲ではどちらも一成分で与えられるように値をとるのが普通である.一様重力場のエネルギー以外は2乗になっており位置の正負の方向を考えなくてよくなっている.位置エネルギーはほかにも
-G\frac{mM}r\ 万有引力のエネルギー\\
 -\frac1{4\pi\varepsilon_0}\frac{qQ}r\ 静電気のエネルギー
などがある.剛体の問題で重力を加味する場合,万有引力ではなく一様重力場を使って近似するのが普通である.

オイラーラグランジュ方程式

拘束条件・非保存力・強制力なし

\frac{\partial L}{\partial q_i}-\frac{\mathrm d}{\mathrm dt}\frac{\partial L}{\partial \dot q_i}=0
q_iは一般位置といい,具体的には位置x,\ y,\ zや回転角\thetaである.これがどう導かれるかはエンジニアにとっては心底どうでもいいことである.ここで注意したいのは,q_i\dot q_iは別の変数と考えて計算することである.例えばある系のラグランジアンLがありx,\ y,\ \theta,\ \dot x,\ \dot y,\ \dot\thetaを変数に含むならq_ixなどに置き換えてオイラーラグランジュ方程式を3本作ることができる.普通一般位置が位置であるときオイラーラグランジュ方程式ニュートン運動方程式になり,回転角のときはオイラー運動方程式になる.何がうれしいか,位置であろうが回転角であろうがラグランジアンを用いると方程式の形が同じなのである.例えば直交座標系ではなく,極座標系を用いても同じ形になるのだ.

拘束条件・非保存力・強制力あり

\underbrace{\frac{\partial L}{\partial q_i}}_{保存力}\underbrace{-\frac{\mathrm d}{\mathrm dt}\frac{\partial L}{\partial \dot q_i}}_{慣性力}+\underbrace{{\displaystyle\sum_a}\lambda_a\frac{\partial C_a}{\partial q_i}}_{拘束力}+\underbrace{D_i}_{非保存力}+\underbrace{F_i}_{強制力}=0
拘束条件とは式中のC_aのことであり一般位置同士の関係である.例えば円柱が静止摩擦力により滑らず坂を転がるときx=R\thetaという関係があるがC_1:=x-R\theta=0としたものである.系の拘束条件はいくつあってもいいが高専のレベルならせいぜい1, 2個である.\lambda_aは未定乗数とよばれるものであり,拘束条件の数だけあり,一般位置の数のオイラーラグランジュ方程式と拘束条件C_a=0の連立によって求められるもしくは消去されるものである.この作業は手間がかかるので例えば先ほどの円柱の例だとx=R\theta\theta=\frac xRラグランジアンに代入してできるだけラグランジアンに含まれる,求めたい方程式の変数以外の変数を減らして計算した方が早いことが多い.ここだけはどうしてもケースバイケースであるため消去するか残すかの判断がいる.ちなみに式の3項目は糸が剛体を引っ張ったり,円柱が静止摩擦力により滑らずに転がるときの張力や静止摩擦力,つまり拘束力になっており解析力学では未定乗数を求めたり消去する操作や,拘束条件をラグランジアンに代入する操作により拘束力を考えなくてよいようになっていて大変好ましい.2つの変数が比例の関係にあるような拘束条件の場合,簡単そうな片方を選びオイラーラグランジュ方程式を求め両辺比例定数倍すれば他も導かれる.
D_iは非保存力であり,非保存力とは力学的エネルギー保存の法則を満たさないような力であり代表的なものに動摩擦力がある.他にも流体中の剛体にかかる粘性抗力と圧力抗力がある.振動における減衰項もこれにあたる.ここでいう拘束力や非保存力,強制力の「力」は一般力という意味での「力」であり,一般力とは具体的には力や力のモーメント,トルクのことである.普通,一般位置が位置のときのオイラーラグランジュ方程式の一般力は力であり,回転角のときの一般力は力のモーメントやトルクになる.D_iは一般位置q_iの正の方向を正とし剛体が一般位置の正の方向に運動している場合負になることがほとんどである.
F_iは強制力であり,モーターや人の手などによって強制的にかかる一般力のことである.D_iと同様一般位置q_iの正の方向を正とする.D_iは主に熱へのエネルギー散逸,F_iは系へのエネルギー供給によるものである.本来解析力学は保存力(重力や電磁気力)のみによる系を扱うものであるが剛体の問題ではそれ以外の力がかかることがあるため非保存力や強制力の項を加えなけらばならない.

剛体問題の運動方程式の求め方

  1. 系のラグランジアンを求める
  2. 拘束条件を求める
  3. 比例拘束条件か吟味する
  4. ラグランジアンの変数の消去を試みる
  5. 非保存力・強制力を求める
  6. 求めたい一般位置のオイラーラグランジュ方程式を求める
  7. 未定乗数を消去する

この方針で膨大な数の剛体力学における物理モデルの方程式を導くことができる.

放物運動

f:id:ubeyuto:20210518233859j:plain:h200
L=\frac12m\{\dot x^2+\dot y^2\}-mgy
拘束条件なし
非保存力・強制力なし
\frac{\partial L}{\partial x}-\frac{\mathrm d}{\mathrm dt}\frac{\partial L}{\partial \dot x}=-m\ddot x=0\\
\frac{\partial L}{\partial y}-\frac{\mathrm d}{\mathrm dt}\frac{\partial L}{\partial \dot y}=-mg-m\ddot y=0

物理モデル1

f:id:ubeyuto:20210518233936j:plain:h200
L=\frac12m\dot x^2+\frac12J\dot\theta^2+mgx
C=x-R\theta
x\propto\theta
L=\frac12\{mR^2+J\}\dot \theta^2+mgR\theta
非保存力・強制力なし
\frac{\partial L}{\partial \theta}-\frac{\mathrm d}{\mathrm dt}\frac{\partial L}{\partial \dot \theta}=mgR-\{mR^2+J\}\ddot \theta=0

物理モデル2

f:id:ubeyuto:20210518233955j:plain:h200
L=\frac12m_1\dot x_1^2+\frac12m_2\dot x_2^2+\frac12J\dot\theta^2-m_1gx_1\sin\alpha+m_2gx_2
C_1=x_1-R\theta\\
C_2=x_2-\{R+r\}\theta
x_1\propto\theta\\
x_2\propto\theta
L=\frac12\{m_1R^2+m_2(R+r)^2+J\}\dot\theta^2+\{-m_1R\sin\alpha+m_2\{R+r\}\}g\theta
非保存力・強制力なし
\frac{\partial L}{\partial \theta}-\frac{\mathrm d}{\mathrm dt}\frac{\partial L}{\partial \dot \theta}=\{-m_1R\sin\alpha+m_2\{R+r\}\}g-\{m_1R^2+m_2(R+r)^2+J\}\ddot\theta=0

物理モデル3

f:id:ubeyuto:20210518234012j:plain:h200
L=\frac12m_1\dot x_1^2+\frac12m_2\dot x_2^2+\frac12J\dot\theta^2-m_1gx_1+m_2gx_2
C_1=x_1-r\theta\\
C_2=x_2-R\theta
x_1\propto\theta\\
x_2\propto\theta
L=\frac12\{m_1r^2+m_2R^2+J\}\dot\theta^2+\{-m_1r+m_2R\}g\theta
非保存力・強制力なし
\frac{\partial L}{\partial \theta}-\frac{\mathrm d}{\mathrm dt}\frac{\partial L}{\partial \dot \theta}=\{-m_1r+m_2R\}g-\{m_1r^2+m_2R^2+J\}\ddot\theta=0

単振子

f:id:ubeyuto:20210519132530j:plain:h200
ダメなやり方
L=\frac12m\{\dot x^2+\dot y^2\}+mgy
C=x^2+y^2-l^2
未定乗数を残す
非保存力・強制力なし
\frac{\partial L}{\partial x}-\frac{\mathrm d}{\mathrm dt}\frac{\partial L}{\partial \dot x}+\lambda\frac{\partial C}{\partial x}=-m\ddot x+2\lambda x=0\\
\frac{\partial L}{\partial y}-\frac{\mathrm d}{\mathrm dt}\frac{\partial L}{\partial \dot y}=mg-m\ddot y+2\lambda y=0
\lambdaを消去し位置に拘束条件の変形を入れることによって得られるがこのやり方は賢くないので省略する.振子の問題はまず位置でラグランジアンを求めてから回転角へ変数変換してオイラー運動方程式を求めるやり方が賢い.
いいやり方
x=l\sin\theta\\
y=l\cos\theta\\
\dot x=l\cos\theta\dot\theta\\
\dot y=-l\sin\theta\dot\theta
L=\frac12ml^2\dot\theta^2+mgl\cos\theta
拘束条件なし
非保存力・強制力なし
\frac{\partial L}{\partial\theta}-\frac{\mathrm d}{\mathrm dt}\frac{\partial L}{\partial \dot\theta}=-mgl\sin\theta-ml^2\ddot\theta=0

二重振子

f:id:ubeyuto:20210519132546j:plain:h200
L=\frac12m_1\{\dot x_1^2+\dot y_1^2\}+\frac12m_2\{\dot x_2^2+\dot y_2^2\}+m_1gy_1+m_2gy_2
x_1=l_1\sin\theta_1\\
y_1=l_1\cos\theta_1,\\
x_2=l_1\sin\theta_1+l_2\sin\theta_2\\
y_2=l_1\cos\theta_1+l_2\cos\theta_2\\
\dot x_1=l_1\cos\theta_1\dot\theta_1\\
\dot y_1=-l_1\sin\theta_1\dot\theta_1\\
\dot x_2=l_1\cos\theta_1\dot\theta_1+l_2\cos\theta_2\dot\theta_2\\
\dot y_2=-l_1\sin\theta_1\dot\theta_1-l_2\sin\theta_2\dot\theta_2
L=\frac12\{m_1+m_2\}l_1^2\dot\theta_1^2+\frac12m_2l_2^2\dot\theta_2^2+m_2l_1l_2\dot\theta_1\dot\theta_2\cos(\theta_1-\theta_2)\\+\{m_1+m_2\}gl_1\cos\theta_1+m_2gl_2\cos\theta_2
拘束条件なし
非保存力・強制力なし
\frac{\partial L}{\partial\theta_1}-\frac{\mathrm d}{\mathrm dt}\frac{\partial L}{\partial \dot\theta_1}\\=-m_2l_1l_2\dot\theta_2^2\sin(\theta_1-\theta_2)-\{m_1+m_2\}gl_1\sin\theta_1\\-\{m_1+m_2\}l_1^2\ddot\theta_1-m_2l_1l_2\ddot\theta_2\cos(\theta_1-\theta_2)=0\\
\frac{\partial L}{\partial\theta_2}-\frac{\mathrm d}{\mathrm dt}\frac{\partial L}{\partial \dot\theta_2}\\=m_2l_1l_2\dot\theta_1^2\sin(\theta_1-\theta_2)-m_2gl_2\sin\theta_2\\-m_2l_1l_2\ddot\theta_1\cos(\theta_1-\theta_2)-m_2l_2^2\ddot\theta_2=0

水平ばね振子

f:id:ubeyuto:20210519134529j:plain:h200
L=\frac12m\dot x^2-\frac12kx^2
拘束条件なし
非保存力・強制力なし
\frac{\partial L}{\partial x}-\frac{\mathrm d}{\mathrm dt}\frac{\partial L}{\partial \dot x}=-kx-m\ddot x=0

垂直ばね振子

f:id:ubeyuto:20210519134548j:plain:h200
L=\frac12m\dot x^2-\frac12kx^2+mgx
拘束条件なし
非保存力・強制力なし
\frac{\partial L}{\partial x}-\frac{\mathrm d}{\mathrm dt}\frac{\partial L}{\partial \dot x}=-kx+mg-m\ddot x=0

斜方ばね振子

f:id:ubeyuto:20210519134602j:plain:h200
L=\frac12m\dot x^2-\frac12kx^2+mgx\sin\alpha
拘束条件なし
非保存力・強制力なし
\frac{\partial L}{\partial x}-\frac{\mathrm d}{\mathrm dt}\frac{\partial L}{\partial \dot x}=-kx+mg\sin\alpha-m\ddot x=0

2原子分子振動子

f:id:ubeyuto:20210519133227j:plain:h200
L=\frac12m_1\dot x_1^2+\frac12m_2\dot x_2^2-\frac12k(x_1-x_2)^2
拘束条件なし
非保存力・強制力なし
\frac{\partial L}{\partial x_1}-\frac{\mathrm d}{\mathrm dt}\frac{\partial L}{\partial \dot x_1}=-k\{x_1-x_2\}-m\ddot x_1=0\\
\frac{\partial L}{\partial x_2}-\frac{\mathrm d}{\mathrm dt}\frac{\partial L}{\partial \dot x_2}=-k\{x_2-x_1\}-m\ddot x_2=0

2体連成振動子

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L=\frac12m_1\dot x_1^2+\frac12m_2\dot x_2^2-\frac12k_1x_1^2-\frac12k_2(x_1-x_2)^2-\frac12k_3x_2^2
拘束条件なし
非保存力・強制力なし
\frac{\partial L}{\partial x_1}-\frac{\mathrm d}{\mathrm dt}\frac{\partial L}{\partial \dot x_1}=-\{k_1+k_2\}x_1+k_2x_2-m\ddot x_1=0\\
\frac{\partial L}{\partial x_2}-\frac{\mathrm d}{\mathrm dt}\frac{\partial L}{\partial \dot x_2}=-\{k_3+k_2\}x_2+k_2x_1-m\ddot x_2=0

2階線形多自由度振動系(書き途中)

剛体力学の運動方程式を導く究極理論を得たわけだが家に帰るまでが遠足であるように運動方程式を立て解を求めるまでが力学である.解を求める操作は解析力学の役割ではない.微分方程式を解くのはフーリエラプラス解析やグリーン関数などの役割である.しかし解析力学によって多少は楽に解けるようになる系が知られている.それは2階線形多自由度振動系である.これはかなり重要な系で前節の例のほとんどはこの系の一種である.
2階線形多自由度振動系とは運動方程式
\boldsymbol M\ddot{\boldsymbol q}+\boldsymbol C\dot{\boldsymbol q}+\boldsymbol K\boldsymbol q=\boldsymbol f
\boldsymbol qの2階線形微分方程式で表される系である.自由度とは要するに一般位置の数である.\boldsymbol qは一般位置の列であり,具体的には自由度をnとすると
\boldsymbol q=
\begin{pmatrix}
q_1\\
q_2\\
\vdots\\
q_n
\end{pmatrix}
と表すことができる.

各成分は平衡状態(すべての位置が釣り合っていて系が静止している状態)のときの一般位置を0としたものであり,どちらかというと平衡状態からの「変位」である.\boldsymbol Mは慣性行列とよばれるものであり成分は慣性係数とよび,質量や慣性モーメントの意味を持つ.\boldsymbol Kは剛性行列とよばれるものであり成分は復元係数とよび,ばね定数や回転ばね定数の意味を持つ.\boldsymbol Cは減衰行列とよばれるものであり成分は減衰係数とよぶ.\boldsymbol fは強制力の列である.\boldsymbol M,\ \boldsymbol K,\ \boldsymbol Cn\times nの正方行列であり,\boldsymbol f,\ \boldsymbol q,\ またその微分はn行の列である.
2階線形多自由度振動系の運動方程式オイラー=ラグランジュ方程式に対応した形に式変形すると
\underbrace{-\boldsymbol K\boldsymbol q}_{保存力}\underbrace{-\boldsymbol M\ddot{\boldsymbol q}}_{慣性力}\underbrace{-\boldsymbol C\dot{\boldsymbol q}
}_{非保存力}+\underbrace{\boldsymbol f}_{強制力}=0
となる.符号までブレースがかかっていることに注意されたい.1自由度系では3つの行列は0以上の実数になるが慣性力,非保存力,保存力がそれぞれ「加速度」,「速度」,「変位」に対して反対に加わるということである.普通,拘束条件はないものとする.非保存力・強制力の有無で系の名前がついている.

振動系 非保存力なし:不減衰振動系 非保存力あり:減衰振動系
強制力なし:自由振動系 不減衰自由振動系 減衰自由振動系
強制力あり:強制振動系 不減衰強制振動系 減衰強制振動系

高専の範囲だと1自由度系なら4つの場合すべてやるかもしれないが多自由度なら不減衰自由振動系までだろう.需要に応じて加えるが強制振動系は現時点扱わない.
ラグランジアン
L=\frac12\dot{\boldsymbol q}^\top\boldsymbol M\dot{\boldsymbol q}-\frac12\boldsymbol q^\top\boldsymbol K\boldsymbol q
である.\topは転置を意味するが解を求める際運動方程式を導く作業を飛ばすので行列の微分ができなくてもよい.「多少は楽」といったが多自由度系において\boldsymbol M,\ \boldsymbol Kを求めるとき運動方程式から出発するとすべての運動方程式を導いてから行列で表せるように係数を考えなくてはいけないが,ラグランジアンから出発するとそれ一つから考えることができるので効率がいいということである.では1自由度系に恩恵はあるかといわれたらどうであろうか.しかし不減衰自由振動系において多自由度系と統一的かつ機械的な解法を提供する.
まず1自由度系から紹介する.解析力学は関係ないが2階線形1自由度自由振動系の解のまとめとして使ってほしい.
高専生にとって有益な情報は多自由度不減衰振動系にあるのでそこまで読み飛ばしても構わない

1自由度系の解

不減衰自由振動系

ラグランジアン
L=\frac12\dot xm\dot x-\frac12xkx
固有角振動数
k-\omega^2m=0\rightarrow\omega=\sqrt{\frac km}
特殊解(初期位置:x_0,\ 初期速度:v_0)
x=x_0\cos\omega t+\frac{v_0}\omega\sin\omega t=X\cos(\omega t-\phi)=X\sin(\omega t+\psi)\\
X=\sqrt{x_0^2+\left(\frac{v_0}{\omega}\right)^2}\\
\phi=\arctan\frac{v_0}{\omega x_0}\\
\psi=\arctan\frac{\omega x_0}{v_0}

減衰自由振動系

ラグランジアン
L=\frac12\dot xm\dot x-\frac12xkx
減衰係数
c
減衰比
\zeta=\frac c{2\sqrt{mk}}
不減衰固有角振動数
k-\omega^2m=0\rightarrow\omega=\sqrt{\frac km}

特殊解(初期位置:x_0,\ 初期速度:v_0)

不足減衰(0\leq\zeta<1)
減衰固有角振動数
\omega_d=\omega\sqrt{1-\zeta^2}
x=\left\{x_0\cos\omega_d t+\frac{v_0+x_0\zeta\omega}{\omega_d}\sin\omega_d t\right\}e^{-\zeta\omega t}=X\cos(\omega t-\phi)e^{-\zeta\omega t}=X\sin(\omega t+\psi)e^{-\zeta\omega t}\\
X=\sqrt{x_0^2+\left(\frac{v_0+x_0\zeta\omega}{\omega_d}\right)^2}\\
\phi=\arctan\frac{v_0+x_0\zeta\omega}{x_0\omega_d}\\
\psi=\arctan\frac{x_0\omega_d}{v_0+x_0\zeta\omega}

臨界減衰(\zeta=1)
x=\{x_0+\{v_0+x_0\omega\}t\}e^{-\omega t}

過減衰(\zeta>1)
x=\left\{\frac{x_0}2+\frac{x_0\zeta}{2\sqrt{\zeta^2-1}}+\frac{v_0}{2\omega\sqrt{\zeta^2-1}}\right\}e^{\left\{-\zeta\omega+\omega\sqrt{\zeta^2-1}\right\}t}\\
 +\left\{\frac{x_0}2-\frac{x_0\zeta}{2\sqrt{\zeta^2-1}}-\frac{v_0}{2\omega\sqrt{\zeta^2-1}}\right\}e^{\left\{-\zeta\omega-\omega\sqrt{\zeta^2-1}\right\}t}

1自由度自由振動系の解の求め方

  1. 系のラグランジアンを求める
  2. 減衰係数を求める
  3. 減衰比を求め1を基準に大小関係を求める
  4. 不減衰固有角振動数を求める(不足減衰の場合は減衰固有角振動数も求める)
  5. 特殊解を求める

1自由度系では1, 2番を「運動方程式を求める」に置き換えてもさほど解く早さは変わらない.覚えることは
減衰比
\zeta=\frac c{2\sqrt{mk}}
不減衰固有角振動数
k-\omega^2m=0\rightarrow\omega=\sqrt{\frac km}
減衰固有角振動数
\omega_d=\omega\sqrt{1-\zeta^2}
という定義と
C_1\cos x+C_2\sin x=\sqrt{C_1^2+C_2^2}\cos(x-\arctan\frac{C_2}{C_1})=\sqrt{C_1^2+C_2^2}\sin(x+\arctan\frac{C_1}{C_2})
という公式である.不減衰固有角振動数で式変形前を書いたのはわざとで式変形前の式の形を覚えていただきたい.特殊解は覚えることはお勧めしないのでその場で求める能力を身に着けるべきである.

例(固有角振動数まで)

不減衰系しかないが前節の例を考えてみる.
水平ばね振子
L=\frac12m\dot x^2-\frac12kx^2=\frac12\dot xm\dot x-\frac12xkx
減衰係数なし
k-\omega^2m=0\rightarrow\omega=\sqrt{\frac km}
垂直ばね振子
L=\frac12m\dot x^2-\frac12kx^2+mgx
x=x'+\frac{mg}k
L=\frac12m\dot x'^2-\frac12kx'^2+\frac{(mg)^2}{2k}\rightarrow \frac12\dot x'm\dot x'-\frac12x'kx'※※
減衰係数なし
k-\omega^2m=0\rightarrow\omega=\sqrt{\frac km}
斜方ばね振子
L=\frac12m\dot x^2-\frac12kx^2+mgx\sin\alpha
x=x'+\frac{mg\sin\alpha}k
L=\frac12m\dot x'^2-\frac12kx'^2+\frac{(mg\sin\alpha)^2}{2k}\rightarrow \frac12\dot x'm\dot x'-\frac12x'kx'※※
減衰係数なし
k-\omega^2m=0\rightarrow\omega=\sqrt{\frac km}
※重力とばねの復元力が釣り合った状態からの変位x'へ変数変換している
kx_0=mg\sin\alpha\rightarrow x_0=\frac{mg\sin\alpha}k\\
x'=x-x_0\rightarrow x=x'+\frac{mg\sin\alpha}k
※※ラグランジアンは定数の違いがあっても消えるので等価である

多自由度系の解

不減衰自由振動系

ラグランジアン
L=\frac12\dot{\boldsymbol q}^\top\boldsymbol M\dot{\boldsymbol q}-\frac12\boldsymbol q^\top\boldsymbol K\boldsymbol q
固有角振動数
\det(\boldsymbol K-\omega^2\boldsymbol M)=0\rightarrow\omega=\omega_1,\ \omega_2,\ \ldots,\ \omega_n>0
固有モード
\{\boldsymbol K-\omega_a^2\boldsymbol M\}\boldsymbol u_a=0\rightarrow\boldsymbol u_a\neq0(a=1,\ 2,\ \ldots,\ n)
一般解
\boldsymbol q=\displaystyle\sum_{a=1}^n\boldsymbol u_a\{A_a\cos\omega_at+B_a\sin\omega_at\}

減衰自由振動系

試験後に自己満足で書きます

覚えることは固有角振動数の式である.この行列式の方程式には永年方程式という名前がついており,1自由度系の拡張になっていることがわかる(行列式は絶対値でない).この永年方程式から自由度の数(重解の可能性あり)の固有角振動数を求めることができる.

例(固有角振動数まで)

不減衰系しかないが前節の例を考えてみる.

2原子分子振動子
L=\frac12m_1\dot x_1^2+\frac12m_2\dot x_2^2-\frac12k(x_1-x_2)^2\\
=\frac12
\begin{pmatrix}
\dot x_1&\dot x_2
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}
m_1&0\\
0&m_2
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}
\dot x_1\\
\dot x_2
\end{pmatrix}
 -\frac12
\begin{pmatrix}
x_1&x_2
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}
k&-k\\
 -k&k
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}
x_1\\
x_2
\end{pmatrix}
減衰行列なし
\det(\boldsymbol K-\omega^2\boldsymbol M)=
\begin{vmatrix}
k-\omega^2m_1&-k\\
 -k&k-\omega^2m_2
\end{vmatrix}\\=\{k-\omega^2m_1\}\{k-\omega^2m_2\}-k^2=0\\
\omega=\sqrt{\frac{m_1+m_2}{m_1m_2}k}

2体連成振動子
L=\frac12m_1\dot x_1^2+\frac12m_2\dot x_2^2-\frac12k_1x_1^2-\frac12k_2(x_1-x_2)^2-\frac12k_3x_2^2\\
=\frac12
\begin{pmatrix}
\dot x_1&\dot x_2
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}
m_1&0\\
0&m_2
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}
\dot x_1\\
\dot x_2
\end{pmatrix}
 -\frac12
\begin{pmatrix}
x_1&x_2
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}
k_1+k_2&-k_2\\
 -k_2&k_2+k_3
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}
x_1\\
x_2
\end{pmatrix}
減衰行列なし
\det(\boldsymbol K-\omega^2\boldsymbol M)=
\begin{vmatrix}
k_1+k_2-\omega^2m_1&-k_2\\
 -k_2&k_2+k_3-\omega^2m_2
\end{vmatrix}\\=\{k_1+k_2-\omega^2m_1\}\{k_2+k_3-\omega^2m_2\}-k_2^2=0\\
\omega_1=\frac{k_1+k_2}{2m_1}+\frac{k_2+k_3}{2m_2}-\sqrt{\left(\frac{k_1+k_2}{2m_1}+\frac{k_2+k_3}{2m_2}\right)^2-\frac{\{m_1+k_3\}k_2+k_1k_3}{m_1m_2}}\\
\omega_2=\frac{k_1+k_2}{2m_1}+\frac{k_2+k_3}{2m_2}-\sqrt{\left(\frac{k_1+k_2}{2m_1}-\frac{k_2+k_3}{2m_2}\right)^2-\frac{\{m_1+k_3\}k_2+k_1k_3}{m_1m_2}}

微小振動系

ここも試験後に自己満足で書きます.振子でも微小振動なら振動系として扱えるという理論です.