高専生のための解析力学
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解析力学とは質点・質点系・剛体の力学にとどまらず電磁気学,相対性理論,量子論とほとんどの現代物理学の根幹をなす,すなわち物理の常識である.そんな解析力学は物理学者のみならずエンジニアにも好まれる大変便利なツールという一面を持つ.エンジニアにとって具体的にどのような場面で使われるかというと剛体の運動方程式を導くときと,振動系の固有振動数や運動方程式,その解を導くときに使われる.なぜ好まれるのかというと,系が複雑でも極めて機械的に解くことができるからである.エンジニアにとって興味があるのは物理現象ではなく作るものの力学的な量でありそれを求めるためにケースバイケースで考えるのは効率が悪い.これを高専生が学んだら将来エンジニアになってからだけでなく試験や実験で活用でき学ぶ価値がありそうなのでこの記事を書こうと思うに至った.今回扱うのは解析力学の中でもラグランジュ形式とよばれるものである.理論的な説明でわからなくてもいいのでとりあえず読み進め,豊富な具体例で理解することをお勧めする.
ラグランジアン
系の運動エネルギーと系の位置エネルギーに対し
と定義される量をラグランジアンという.これが何を意味するのかはナンセンスな問いである.僕もわからないしこれに物理的もしくは幾何的意味を与える重要な理論など存在しないと思う.ただこれを使っていろいろやるだけである.「系の」とつけたが例えば複数の物体の系のエネルギーはすべての物体のエネルギーを足したものになる.物体が複数ある系は運動方程式から議論を始めると物体の数だけ(回転するならそれよりも)方程式を立てなければならず効率が悪い.そこで系の全エネルギーまたそこから作られるラグランジアンから議論を始めると一つで済むので大変好ましい.ラグランジアンとは系の情報の親玉なのである.さての覚えるべき具体例は
の以上4つである.文字の上の点は時間の1階微分を表す.運動エネルギーは3次元的に運動するのであれば
のようにあらわされる.回転運動のエネルギーはより一般的には慣性モーメントは行列で与えられ,回転角も列や行で与えられるが高専の範囲ではどちらも一成分で与えられるように値をとるのが普通である.一様重力場のエネルギー以外は2乗になっており位置の正負の方向を考えなくてよくなっている.位置エネルギーはほかにも
などがある.剛体の問題で重力を加味する場合,万有引力ではなく一様重力場を使って近似するのが普通である.
オイラー=ラグランジュ方程式
拘束条件・非保存力・強制力なし
は一般位置といい,具体的には位置や回転角である.これがどう導かれるかはエンジニアにとっては心底どうでもいいことである.ここで注意したいのは,とは別の変数と考えて計算することである.例えばある系のラグランジアンがありを変数に含むならをなどに置き換えてオイラー=ラグランジュ方程式を3本作ることができる.普通一般位置が位置であるときオイラー=ラグランジュ方程式はニュートンの運動方程式になり,回転角のときはオイラーの運動方程式になる.何がうれしいか,位置であろうが回転角であろうがラグランジアンを用いると方程式の形が同じなのである.例えば直交座標系ではなく,極座標系を用いても同じ形になるのだ.
拘束条件・非保存力・強制力あり
拘束条件とは式中ののことであり一般位置同士の関係である.例えば円柱が静止摩擦力により滑らず坂を転がるときという関係があるがとしたものである.系の拘束条件はいくつあってもいいが高専のレベルならせいぜい1, 2個である.は未定乗数とよばれるものであり,拘束条件の数だけあり,一般位置の数のオイラー=ラグランジュ方程式と拘束条件の連立によって求められるもしくは消去されるものである.この作業は手間がかかるので例えば先ほどの円柱の例だとやをラグランジアンに代入してできるだけラグランジアンに含まれる,求めたい方程式の変数以外の変数を減らして計算した方が早いことが多い.ここだけはどうしてもケースバイケースであるため消去するか残すかの判断がいる.ちなみに式の3項目は糸が剛体を引っ張ったり,円柱が静止摩擦力により滑らずに転がるときの張力や静止摩擦力,つまり拘束力になっており解析力学では未定乗数を求めたり消去する操作や,拘束条件をラグランジアンに代入する操作により拘束力を考えなくてよいようになっていて大変好ましい.2つの変数が比例の関係にあるような拘束条件の場合,簡単そうな片方を選びオイラー=ラグランジュ方程式を求め両辺比例定数倍すれば他も導かれる.
は非保存力であり,非保存力とは力学的エネルギー保存の法則を満たさないような力であり代表的なものに動摩擦力がある.他にも流体中の剛体にかかる粘性抗力と圧力抗力がある.振動における減衰項もこれにあたる.ここでいう拘束力や非保存力,強制力の「力」は一般力という意味での「力」であり,一般力とは具体的には力や力のモーメント,トルクのことである.普通,一般位置が位置のときのオイラー=ラグランジュ方程式の一般力は力であり,回転角のときの一般力は力のモーメントやトルクになる.は一般位置の正の方向を正とし剛体が一般位置の正の方向に運動している場合負になることがほとんどである.
は強制力であり,モーターや人の手などによって強制的にかかる一般力のことである.と同様一般位置の正の方向を正とする.は主に熱へのエネルギー散逸,は系へのエネルギー供給によるものである.本来解析力学は保存力(重力や電磁気力)のみによる系を扱うものであるが剛体の問題ではそれ以外の力がかかることがあるため非保存力や強制力の項を加えなけらばならない.
剛体問題の運動方程式の求め方
- 系のラグランジアンを求める
- 拘束条件を求める
- 比例拘束条件か吟味する
- ラグランジアンの変数の消去を試みる
- 非保存力・強制力を求める
- 求めたい一般位置のオイラー=ラグランジュ方程式を求める
- 未定乗数を消去する
この方針で膨大な数の剛体力学における物理モデルの方程式を導くことができる.
例
放物運動
拘束条件なし
非保存力・強制力なし
物理モデル1
非保存力・強制力なし
物理モデル2
非保存力・強制力なし
物理モデル3
非保存力・強制力なし
単振子
ダメなやり方
未定乗数を残す
非保存力・強制力なし
※を消去し位置に拘束条件の変形を入れることによって得られるがこのやり方は賢くないので省略する.振子の問題はまず位置でラグランジアンを求めてから回転角へ変数変換してオイラーの運動方程式を求めるやり方が賢い.
いいやり方
拘束条件なし
非保存力・強制力なし
二重振子
拘束条件なし
非保存力・強制力なし
水平ばね振子
拘束条件なし
非保存力・強制力なし
垂直ばね振子
拘束条件なし
非保存力・強制力なし
斜方ばね振子
拘束条件なし
非保存力・強制力なし
2原子分子振動子
拘束条件なし
非保存力・強制力なし
2体連成振動子
拘束条件なし
非保存力・強制力なし
2階線形多自由度振動系(書き途中)
剛体力学の運動方程式を導く究極理論を得たわけだが家に帰るまでが遠足であるように運動方程式を立て解を求めるまでが力学である.解を求める操作は解析力学の役割ではない.微分方程式を解くのはフーリエ・ラプラス解析やグリーン関数などの役割である.しかし解析力学によって多少は楽に解けるようになる系が知られている.それは2階線形多自由度振動系である.これはかなり重要な系で前節の例のほとんどはこの系の一種である.
2階線形多自由度振動系とは運動方程式が
との2階線形微分方程式で表される系である.自由度とは要するに一般位置の数である.は一般位置の列であり,具体的には自由度をとすると
と表すことができる.
2階線形多自由度振動系の運動方程式をオイラー=ラグランジュ方程式に対応した形に式変形すると
となる.符号までブレースがかかっていることに注意されたい.1自由度系では3つの行列は0以上の実数になるが慣性力,非保存力,保存力がそれぞれ「加速度」,「速度」,「変位」に対して反対に加わるということである.普通,拘束条件はないものとする.非保存力・強制力の有無で系の名前がついている.
振動系 | 非保存力なし:不減衰振動系 | 非保存力あり:減衰振動系 |
---|---|---|
強制力なし:自由振動系 | 不減衰自由振動系 | 減衰自由振動系 |
強制力あり:強制振動系 | 不減衰強制振動系 | 減衰強制振動系 |
高専の範囲だと1自由度系なら4つの場合すべてやるかもしれないが多自由度なら不減衰自由振動系までだろう.需要に応じて加えるが強制振動系は現時点扱わない.
ラグランジアンは
である.は転置を意味するが解を求める際運動方程式を導く作業を飛ばすので行列の微分ができなくてもよい.「多少は楽」といったが多自由度系においてを求めるとき運動方程式から出発するとすべての運動方程式を導いてから行列で表せるように係数を考えなくてはいけないが,ラグランジアンから出発するとそれ一つから考えることができるので効率がいいということである.では1自由度系に恩恵はあるかといわれたらどうであろうか.しかし不減衰自由振動系において多自由度系と統一的かつ機械的な解法を提供する.
まず1自由度系から紹介する.解析力学は関係ないが2階線形1自由度自由振動系の解のまとめとして使ってほしい.
高専生にとって有益な情報は多自由度不減衰振動系にあるのでそこまで読み飛ばしても構わない
1自由度系の解
不減衰自由振動系
ラグランジアン
固有角振動数
特殊解()
1自由度自由振動系の解の求め方
- 系のラグランジアンを求める
- 減衰係数を求める
- 減衰比を求め1を基準に大小関係を求める
- 不減衰固有角振動数を求める(不足減衰の場合は減衰固有角振動数も求める)
- 特殊解を求める
1自由度系では1, 2番を「運動方程式を求める」に置き換えてもさほど解く早さは変わらない.覚えることは
減衰比
不減衰固有角振動数
減衰固有角振動数
という定義と
という公式である.不減衰固有角振動数で式変形前を書いたのはわざとで式変形前の式の形を覚えていただきたい.特殊解は覚えることはお勧めしないのでその場で求める能力を身に着けるべきである.
多自由度系の解
不減衰自由振動系
ラグランジアン
固有角振動数
固有モード
一般解
微小振動系
ここも試験後に自己満足で書きます.振子でも微小振動なら振動系として扱えるという理論です.